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今後30年の間に3つの大地震が高確率で発生 —— 必ずやってくる大地震にそなえよ 

牧野 知弘牧野 知弘

2022/03/29

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イメージ/©︎svitden・123RF

1973年に刊行された小松左京作『日本沈没』(光文社カッパノベルス)は上下巻で793ページにも及ぶ大作であったにもかかわらず、上巻204万部、下巻181万部という大ベストセラーになったSF小説である。この作品は刊行された73年と2006年に映画化され、74年にはドラマとしても放映されていたが、21年10月に再度TBSテレビ日曜劇場でドラマ化され、高い視聴率を獲得した。

TBSテレビ「日曜劇場」版では環境省官僚・天海啓示(あまみ・けいし)を小栗旬が、地震学者・田所雄介(たどころ・ゆうすけ)を香川照之が演じた

ストーリーは日本列島近傍のマントル流に変化が起こり、そのことによって地殻変動が発生して日本列島の陸地の大半が海中に没し、日本人の多くが日本を離れ世界に漂流するという「悲惨な未来」を綴ったものだ。この状況を予言する地球物理学者とそれをありえない戯言と失笑する人々の対比を描きながら、ありえない出来事の発生と危機対応の難しさが、作家による冷徹な地球物理学からの考察と鮮やかな筆致で見事に表現されている。

この小説が刊行された1973年は、関東大震災の発生(1923年)からちょうど50年。日本全体が沈没してこの世からなくなるというのはさすがに想像しづらいものがあるが、大地震は専門家の予測によればどうやらかなり近い将来に現実の出来事として我々の身に生じることになりそうだ。

3つの大地震の震源地 静岡県駿河湾近辺、三重県から和歌山県の沖合、四国の高知県沖

政府の地震調査委員会は、今後30年の間に高確率で3つの大地震が発生する可能性が高いと予測する。3つの地震とは静岡県駿河湾近辺を震源とする東海、三重県から和歌山県の沖合を中心とする東南海、そして四国の高知県沖を震源とする南海地震の3つを指す。

3つの大地震のうち、今後30年以内に発生する確率は、マグニチュード8.0の東海地震で88%、同8.1の東南海地震で70%、同8.4の南海地震で60%とされ、この確率は当然だが歳月がすすむにつれて高くなっていくことになる。

今でも記憶に新しいのが1995年に発生した阪神淡路大震災と、2011年に発生した東日本大震災である。阪神淡路大震災で証明されたのが、旧耐震基準で建築された多くのオフィスビル、マンション、家屋などの建物に大きな被害が生じたことだった。また老朽化した高速道路などの社会インフラでも多くの被害が発生した。小規模木造家屋が密集していた神戸市の長田地区などが火災で甚大な被害を受けたことは、木造家屋密集地域の安全性に対する意識を高めた。

いっぽうで東日本大震災では、上記の被害に加えて、津波による災害がクローズアップされた。この激甚災害は建物の耐震性だけでなく、建物の立地に対する関心を想起させるものとなった。建物は土地の上に存するから流されていくのも当然だが、肝心の土地が津波によって利用できないほどの状態になる事態は、衝撃的であった。

不動産は読んで字のごとく、動くことのない土地をベースにしたものである。ところが東日本大震災では、土地そのものが津波に洗われ、その上に建つ建物を押し流すという災害だった。津波が引いた後、土地は再びその姿を現したが、津波に襲われた土地の価値は暴落してしまったのだ。

また阪神淡路大震災や東日本大震災でも経験したが、大地震で建物自体の被害を免れたとしても、土地が液状化して、社会インフラである水道やガスなどの配管に大きな被害が発生する現象にも遭遇した。神戸のポートアイランド地区、あるいは千葉県の新浦安地区といった、埋立地に新たに開発されたお洒落タウンが、地区内を歩くにも苦労するほどのズタズタの状態になったことは記憶に新しい。

こうした大地震が再び日本を襲う。これは確実にやってくる災害である。そして災害に対する備えは、重要であると誰しもが思っていたとしても、実際に起きるまで多くの人は事態を甘く見ているのが現実だ。

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建築技術だけで大自然の引き起こす災厄に立ち向かえるのか

デベロッパーは儲かるからといって相変わらず東京の湾岸地区に続々とタワマンを建設、分譲している。たしかに湾岸タワマンから眺める東京の夜景は格別だ。実際にタワマン生活に憧れてマンションを買い求める人たちは多く、販売状況は好調を持続している。

建物は敷地地下深く、岩盤層に杭を打ち込んでいるので、阪神淡路や東日本のような大地震が発生しても建物が倒壊することはない、絶対に大丈夫だという。エレベーターは停止しても、非常用電源が作動して3日間から一週間程度の電力は確保できる、だから安心だという。土地が液状化しても建物内は安全だ。日本の先進の建築技術をもってすれば大災害が起きても資産価値は守られるというのが彼らの論理だ。

でも本当だろうか。

東京はやはりタワマンが林立する香港やシンガポールとは違い、地震国だ。いつかその日がやってきたとき(そしてその確率は30年という短いタイムスパンで考えなければならない)、所詮は人間の叡智=建築技術、だけで大自然の引き起こす災厄に立ち向かうことができるだろうか。

非常用電源が建物を維持するのは時間制限があるだけでなく、共用部の設備の半分か3分の1程度を賄うにすぎない。最近の物件ではある程度対策が施されているかもしれないが、初期に建設されたタワマンなどは東日本大震災で図らずも露呈したようにエレベーターは停止し、高層階住民は配給された水を持って自分の住む部屋まで階段を上っていかなければならなかった。電源を失えば、給水タンクが機能せずにトイレにも行けなくなったことを、多くの人たちは忘れかけている。

すぐそばの未来に、この大地震が発生することを前提に不動産の未来を考えることは、億劫なことであるし、できれば「見ない」「聞かない」「話さない」、日本人の大好きな問題先送りで流してしまいたいところだが、天災はある日突然、何の告知もなく、発生するのだ。

やれることは多い 優先順位を付け対応を

旧耐震建物の耐震補強・建て替え、木造密集地域での街区整備、津波危険地区での避難所の確保。海岸や河川の整備。そして何よりも地震が発生した時の防災訓練。やれることはたくさんある。そしてそれらの優先順位をあげていくことが求められている。

こうした備えに対して不動産が果たす役割は大きい。建てっぱなし、売りっぱなしではなく、来るべき災害に備えた防災機能の強化は今に始まった話ではないが、より強化していく必要に迫られているのだ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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